016 星の王子さま

私の人生において、『星の王子さま』を100回は読みました。最近は内藤濯さん以外の訳も多数出ています。それらも読んで見ましたが、私は内藤濯さんの訳しか読めません。『星の王子さま』は最高の文学作品だと思っています。内藤濯さんの訳だけでもわが家には4冊あります。他の人の訳は数冊あります。解説本や関連本もいろいろと。

016-1

フランス人・飛行士のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの代表作であり、1943年にアメリカで出版されました。200以上の国と地域の言葉に翻訳され、世界中で総販売部数1億5千万冊を超えたロングベストセラーです。べつに、私だけが高い評価をしているわけでもありません。大阪・千里の国立民族学博物館では、各国で出版された『星の王子さま』を展示しています。

016-2

児童文学、あるいはファンタジーと捉えられがちですが、それだけのことなら、ここまで読まれることはなかったかもしれません。似たような存在として、ミヒャエル・エンデの『モモ』があるでしょう。

016-3

『モモ』は時間どろぼうを描くことで、お金の持つ問題を浮き彫りにしています。児童文学でありながら、テーマは広く深く、現代社会の深層をえぐるかのようです。

では、『星の王子さま』はというと。フランス人の本の初版がアメリカでの出版なんですね。母国語での出版は、その後です。1943年の出版ですから、第二次世界大戦中です。当時のフランスは、ドイツに占領されナチスの配下にありました。サン=テグジュペリは、アメリカへ亡命しました。祖国を案じ、フランス人の和解と団結を訴えます。1943年に『星の王子さま』を出版後、連合軍に参加し、偵察飛行隊として、偵察飛行を繰り返し、1944年7月31日、ドイツ機に撃墜され、生涯を閉じました。サン=テグジュペリは、『星の王子さま』以外にも、何冊も出版しており、とくに『人間の土地』は、ヒトラーのドイツ空軍の書棚にあったそうです。反ファシスト、サン=テグジュペリの本が。ナチス兵にもサン=テグジュペリの愛読者は多く、サン=テグジュペリの死をドイツ兵たちも残念がったそうです。サン=テグジュペリを撃墜したパイロットは、後日、そのことを知り、二度と飛行機に乗らなかったそうです。

016-5

『星の王子さま』は、美しいファンタジーでありながら、人類史上最悪の惨禍から生まれています。そもそも、多くの人をひきつけてやまない小説は、悲惨な状況において、あるいは自分を徹底的に壊すこととひきかえに生まれることが多いです。つまり、それなりの代償が必要だというわけです。

サン=テグジュペリは、不運にして戦死したというより、祖国のことを思い、何もせずにいることができず、みずから死をつかみ取ったという印象を受けます。1939年~1944年の死までの間の、サン=テグジュペリ書簡集が邦訳されています。その第3巻『心は二十歳さ』は、最後の8カ月が収められ、彼の思いをたどることができます。

016-4

『星の王子さま』の一番のメッセージは、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」でしょう。「大切なことは目に見えない」というテーマは、冒頭の「ゾウをのんだウワバミの絵」からラストシーンまで一貫しています。

では、目に見えない大切なことって、なんでしょうね?

じつはこれ、エクサスケール革命、シンギュラリティに向けて、重要なテーマだと思うのです。人工知能やロボットが、踏み込むことのできない、人間がもつ聖域。人間の尊厳と言ってもいいでしょうか。これ以外のまあすべては、人工知能やロボットが代替できそうです。しかし、この聖域だけは、人間にしか扱えません。

2027年の職業65%を心配するなら、まさに、ここですよ。しかし、悲しいかな、学校教育も受験も、この聖域を無視し、人工知能に負けるための努力をしているとしか見えません。

そうそう、サン=テグジュペリが祖国フランスを案じたのは、我が国で最近流行の「愛国心」とは似ても似つかぬものです。その精神は、『星の王子さま』に散りばめられています。敵を倒すことではなく、敵から守ることでもない。競争に勝つことでもない。『心は二十歳さ』に直接的な表現が多々ありますが、ここはひとつ、『人間の土地』から、サンテグジュペリの言葉を引用しておきます。

人間であるということは、とりもなおさず責任をもつことだ。
人間であるということは、自分には関係がないと思われるような不幸な出来事に対して忸怩たることだ。
人間であるということは、自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ。
人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ。
 

016-7

(この写真は、箱根の「星の王子さまミュージアム」の展示パネルです)

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください

PAGE TOP